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2025.05.15

広松由希子のこの絵本のココ! 第9回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編5

第9回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編5

MOE2025年2月号(バックナンバー発売中)の巻頭特集「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」にて、2024年の注目の新刊絵本、惜しくもランクインを逃した絵本などについて、広松由希子さんにお話しいただいた記事の完全版を分割してお送りします。
 

ノンフィクション 動植鉱物
 

 


『イリエワニ』福田雄介/文 関俊一/絵 福音館書店
 

  『イリエワニ』は、2022年の『ホホジロザメ』と同じ画家さんがワニの専門家と組んで描かれたんですよね。サメにもかぶりつく世界最大のワニを描いた絵本で、今回もゾッとする大迫力です。

 


『トガリネズミ ひみつのくらし』六田晴洋/写真・文 世界文化社
 

 対照的なのが『トガリネズミ ひみつのくらし』。 こちらは写真絵本ですが、世界最小哺乳類。こいつが、もう可愛くて。よくこんなにいろんな角度から捉えられたなと。生まれたばかりの1円玉ぐらいのやつとか、思わず見入ってしまいます。
 
 


うまれたよ! ヤモリ』関慎太郎/写真・文 岩崎書店
 

 注目の写真絵本はたくさんあって、日本の科学絵本もデザインがよくなってきたので見ていて楽しい。写真を思い切り大きく見せて、文章量は少なく大きなフォントで入れた「よみきかせ いきものしゃしんえほん」は、科学絵本が好みでない人にもおすすめ。「うまれたよ!」シリーズも、いいのがいろいろありますが、身近な『うまれたよ! ヤモリ』も可愛くて好きでした。子どもがこうした本を入り口に、もっと詳しい科学絵本も読むようになったらいいですね。
  
 


『シロツメクサはともだち』鈴木純/作 ブロンズ新社
 

  植物では『シロツメクサはともだち』(★第17回MOE絵本屋さん大賞2024 27位)も話題になりました。「ダーウィンが来た!」出演の鈴木純さんの初の絵本ですが、地面のはいつくばった目の高さでずっと見ていくのが楽しい。植物の声が聞こえてくるようです。

 


『石は元素の案内人』田中陵二/文・写真 福音館書店
 

 『石は元素の案内人』は地球の中の鉱物、岩とか石とか塩とか、いろんな結晶を見ることができて、ただ眺めてもきれいな本なんですけど、この世界の元を考えながら、地球をずっと掘ってくような感覚で読める本です。
 

 
ノンフィクション 人間
 
 

『人間は料理をする生きものだ』森枝卓士/文・写真 福音館書店
  

 人間についてのノンフィクションも動植物に負けず劣らず面白いものがたくさんありました。『人間は料理をする生きものだ』は、料理を切り口に、食べ物をそのまま生で丸かじりする動物と比較するところから、人間の生き方を見ていきます。時代によって、地域によって、さまざまな道具を使って、いろんな料理の仕方があって……魅力的な写真を見ながら、人の暮らしや知恵を学べます。

 


『しごとのどうぐ』三浦太郎/作 偕成社
 

 三浦太郎さんの『しごとのどうぐ』は、 イタリアのコライーニ出版から2005年に出版され、20年近く経ってやっと逆輸入された絵本です。三浦さんは、2000年代は主にグラフィックでスタイリッシュな絵本はヨーロッパで、日本では『くっついた』を初めとする赤ちゃん絵本が中心……という具合に分けられている感じがありましたが、ようやく日本でもこのかっこいい絵本が出てうれしいです。見開きに道具がずらっと並び、めくると、その道具を使う職業の人が出てくるという2拍子の作り。大工さんとか仕立て屋さんとかお医者さんとか……お得意のワークマンですね。道具自体のデザインももちろん美しいのですが、それぞれの職業にあったフォントなど、ディテールにも納得できて楽しいです。

 


『ひき石と24丁のとうふ』大西暢夫/作 アリス館
 

 『ひき石と24丁のとうふ』は、惜しくも30位から漏れましたが、とても印象的な今年のノンフィクション絵本のひとつでした。書店員さんのコメントも思いのこもったものが多かったですね。作者が豆腐を一筋に作り続ける90歳のミナさんのところに、何年も通って密着取材した写真絵本です。大西暢夫さんのドキュメント絵本の作り方は、とことん誠実で、頭が下がります。豊かな表現力の写真と必要最小限のことばが、合わさって語りかけてくる。いわゆる有名人ではないけれど、今は亡くなったミナさんの、こういう生き方があったということは、絵本の形でずっと残りますね。

 


『人形からとどいた手紙―ベルリンのカフカ』ラリッサ・トゥーリー/文 レベッカ・グリーン/絵 野坂悦子/訳 化学同人
 

 伝記絵本も豊作でした。毛色の変わったところでは『人形からとどいた手紙―ベルリンのカフカ』。小説家フランツ・カフカの胸を打つエピソードが、レベッカ・グリーンの現代的な絵とともに興味深く読める。ラストだけ実話と変えたと書いてありました。伝記絵本というのは、作者の解釈とアレンジはどうしても加わると思いますが、絵本として本質的なところを伝えようとするものですよね。
 

 


『その絵ときたら!―新しい絵本の時代をつくったコールデコット』ミシェル・マーケル/文 バーバラ・マクリントック/絵 福本友美子/訳 ほるぷ出版
 

 だから同じ人の物語でも何通りも出てよいのですが、そういえば今までなかった気がする……と思ったのが、絵本の創始者ともいえる、コールデコットの伝記絵本『その絵ときたら!―新しい絵本の時代をつくったコールデコット』でした。彼がいなかったら、今の絵本はないというくらい、絵本の世界を切り拓いた人ですね。それをバーバラ・マクリントックの古典的な画風で描いたところがドンピシャ。途中に挿入されるコールデコットの有名なジョン・ギルピンの挿絵や当時の新聞切り抜きなどとも、みごとに馴染んでいます。 

 

 


『ナガノさん まっちゃアイスの巻』中川ひろたか/作 長谷川義史/絵 アリス館
 

 これも広い意味では伝記絵本かしら……まだご存命だし大活躍中だけれども、超変わり種伝記絵本として取り上げさせていただきます。『ナガノさん まっちゃアイスの巻』。いや、よくぞ実現されました。自由なアレンジや画面の遊びはありつつも、長野さんらしさ満載。「中川ひろたか/作、長谷川義史/絵、協力・モデル/長野ヒデ子」と奥付にあるように、親しい現役作家さん3人の合作ですよね。出版社も共犯か。


 

次回へ続く)

 

広松由希子(ひろまつゆきこ)/絵本の文、評論、展示、翻訳などで活躍中。2017年のブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長など絵本コンペ審査員の仕事も多く、2024年は上海チルドレンズ・ブックフェアで国際審査員を務める。著作に『ようこそ じごくへ』『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』『ハシビロコウがいく』(BL出版)、『わたしを描く』(あかね書房)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。JBBY副会長。絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にて共同主宰。www.83gocco.tokyo

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