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2025.05.22

広松由希子のこの絵本のココ! 第10回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編6

第10回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編6

MOE2025年2月号(バックナンバー発売中)の巻頭特集「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」にて、2024年の注目の新刊絵本、惜しくもランクインを逃した絵本などについて、広松由希子さんにお話しいただいた記事の完全版を分割してお送りします。

 

うんこがすごすぎる
 

 五味太郎さんの『みんなうんち』が出てからも半世紀近く経ち、昨今ではうんこ本も全く珍しくはなくなりましたが、今年のうんこは本気でしたね。
 


『うんこ虫を追え』舘野鴻/文・絵 福音館書店
 

 『うんこ虫を追え』は「たくさんのふしぎ」のハードカバー化。現代のファーブル昆虫記と謳われていますが、舘野鴻さんは実際に立派な論文なども発表されている研究者でもあります。うんこ虫の執拗な追い方が、やっぱり並の絵本作家ではないということがよくわかります。うんこが大好物なうんこ虫は、宝石みたいに輝くオオセンチコガネという虫なのですが、他の研究者たちがそこまでやれないようなことを、失敗を繰り返しながらも徹底的に調べていくんですよね。中でも「オレフン」っていう項目がすごくて。「オレフン」で虫を育てて、追究し、それを絵本にしてしまうっていうすごすぎる実話。本当に感動します。

 


『くらべた・しらべた野山のいろいろうんこ図鑑』盛口満/文・絵 岩崎書店
 

 『くらべた・しらべた野山のいろいろうんこ図鑑』は、うんこ研究を幅広く図鑑的に知りたい人におすすめ。ここにもオオセンチコガネが出てきますけれども、うんこに対してもう少し冷静にフン的な距離感で見ることができますね。舘野さんのほうが、匂い立ってくる感じ。

 


『ぞうのうんちはまわる』重松彌佐/文 しろぺこり/絵 新日本出版社
 

 『ぞうのうんちはまわる』は、絵本で伝える動物園のSDGsとあるように、うんちの循環について飼育員さんの視点から書かれた面白いノンフィクション絵本です。絵もやさしく、そんなに匂ってこない、地球にも読者にも優しいうんち絵本ですね。
  

 
地中と水中
 

 見えないはずのものを見せてくれる断面図って、子どもの頃からそそられました。人形の家とか、アリの巣のキットとか。今年は土の中と水の中を描いた断面絵本が印象的でした。
 

『じゃがいも うえたら…』ユリ・リトケイ/作 BL出版
  

 『じゃがいも うえたら…』はスウェーデンの作者だけれど、スイスで出版された絵本。ボローニャ国際絵本原画展でも注目していた縦開きの本ですが、ジャガイモを植えたところから延々と地上と地中の動きが絵で展開されていくサイレントブックですね。ページ数もたっぷり、最後の解説もしっかり。定点観測が面白い地中の本でした。

 


『まぼろしの巨大クラゲをさがして』クロエ・サベージ/作 よしいかずみ/訳 BL出版
 

 『まぼろしの巨大クラゲをさがして』は、水の中と外の船上の人々が同時に見えている。クラゲを探している船上の人にとっては姿が見えず「まぼろし」なのですが、読者にはクラゲが見えていて、じれったい気持ちになりながら作者との共犯関係を楽しむ絵本です。

 


『すいぞくかんであいましょう』こしだミカ/作 BL出版
 

 『すいぞくかんであいましょう』は、断面図ではないけれど、普段私たちには見えない水族館の内部までカメラが潜入するように、綿密な取材をした絵本ですね。こしだミカさんの水の生き物たちが画面いっぱいにのたくって、すごく魅力的なのはもちろんですが、こしださんって電気とか機械もお得意でしょう。無機質なものもうごめく絵なんですよね。裏方の人間も水生物もタコの足も電気コードも、奇っ怪な生き物みたいにうねうね……気持ち悪さが気持ちいいですよね。これも水の中と外を両方見せてくれる本ということで同じグループにしました。 


 

次回へ続く)

 

広松由希子(ひろまつゆきこ)/絵本の文、評論、展示、翻訳などで活躍中。2017年のブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長など絵本コンペ審査員の仕事も多く、2024年は上海チルドレンズ・ブックフェアで国際審査員を務める。著作に『ようこそ じごくへ』『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』『ハシビロコウがいく』(BL出版)、『わたしを描く』(あかね書房)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。JBBY副会長。絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にて共同主宰。www.83gocco.tokyo

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