- 2025.06.12
広松由希子のこの絵本のココ! 第12回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編8

第12回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編8
MOE2025年2月号(バックナンバー発売中)の巻頭特集「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」にて、2024年の注目の新刊絵本、惜しくもランクインを逃した絵本などについて、広松由希子さんにお話しいただいた記事の完全版を分割してお送りします。
近年国際的に注目されているジャンルで、世界的に面白い本がたくさん出ています。
『わたしのくつしたはどこ?』は、IBBYバリアフリー児童図書 2023に選ばれたチリの絵本です。隔年の選定図書で、現在日本でも巡回中の最新の展示に入っていたのですが、もう翻訳出版されたなんて、素晴らしいです。作者自身が経験した、だんだん視界が狭まって見えなくなっていく病気について、ダックスフントの物語としてみごとに伝えた絵本です。難しい病名や細かい説明は本文では一切書かず、ページに丸い穴を開け、それが徐々に小さくなることで、幼い読者にも感覚的に分かるように表現されています。さらに素晴らしいのは、夢見る研究者である主人公の犬のポジティブ思考。見えない靴下はなくなったわけじゃなくて、気持ちいい手触りでわかるとかね。通勤路の曲がり角は見過ごしても開花期のミモザの匂いで気づくはずとか。視力を失う一方で、他の感覚を生かしていくエピソードのひとつずつが素敵です。作者自身が科学者で自分がモデルだと思いますが、本当に前向きな希望の持てるバリアフリー絵本。巻末に視覚障害についての詳しい解説もあります。絵も物語も完成度が高い、近年注目の中南米の絵本。これからさらにいろんな翻訳も出てくると思います。
『ぼうけんしよう!』は、出版物としても冒険的な絵本。スギヤマカナヨさんらしい多角的な視点が盛り込まれていますね。スギヤマさんは、物語と絵の両方を手がけ、人が気づかないようなところにも気を配り、面白がらせてくれる作家です。読者といっしょに遊んでいくアクティビティ絵本も得意だから、それがバリアフリー絵本に生かされていますね。点字つきの触る絵本だけど、 物語にもなっていて。付録のカードもついていて、2本指で迷路をたどりながら読んでいくんですけど。
村山純子さんの『さわるめいろ』(小学館、2013)と同様に、盛り上がる点字印刷だから必然的に片面印刷で、綴じがなく、1枚の紙を折るだけで製本されています。さらにこの本の場合は裏面にも、目一杯サービスして解説や遊びが印刷されています。2本指で手探りでテーブルや床をてくてく歩く遊びって、子どもの頃の感覚が蘇ります。見える人も見えない人もいっしょに楽しむ指の冒険、題材がぴたっとハマりましたね。
『うえをみて!』は韓国の本。 事故で歩けなくなった子どもが建物の上の部屋の窓から通りを行く人たちを見下ろす視点でずっと読んでいく本です。「上を見て」という念いが通じるんですね。シンプルな流れですけれども、実感しやすい形。バリアフリー絵本って、以前は障がい者のための本とか、障がいを理解するための本に限定されがちなイメージがありましたが、今では取り払うための「バリア」をきっかけにコンセプトが練られ、しかけや造本も含めて絵本表現としてすごく豊かなジャンルになってきましたね。
2023年のボローニャ・ラガッツィ賞のコミック部門にも凝ったフランス絵本(Laurie Agusti / Jérôme Dubois Un Matin La Partie, 2022)がありましたが、道を選択しながら読み進めていく、展開の可能性を読者に委ねる絵本がここ数年、世界的に目立ちますよね。
アメリカ発『チョコかバニラか?』は、原題は『meanwhile』。迷路のようなチューブみたいなものをたどって選ぶ。3856の可能性があるけれど、ほとんどは行き止まりで、1つしか成功する道はない。ゲーム感覚でハマってしまうんですけれど、さあ、どうする? 選ぶのは君だっていうことですよね。
『このかべどうする?』は、「みらいへのちから◆問題解決力◆」って表紙にわかりやすく書かれていますが、つまり、子どもの本にそうした意図を組み込もうという動きが全体にあるのかなと感じます。選択肢を子どもたちに提示して選ばせていくみたいな。ヨシタケシンスケさんの絵本にも、ふざけたものも含めて選択肢を無限に提示するようなところがありましたが、ヨシタケさんの場合は、作者自身が悶々と悩むような視線が感じられました。『このかべどうする?』は、壁を越えられない小人のような子どもに、読者は自分を重ねて見ていくのだと思いますが、サブタイトルにあるような、未来に向けて子どもたちの問題解決力を養おうという教育的な観点を感じます。選ぶのは君だよって、手渡す本。親切にワークシートもついている。
欧米とか日本とか、 今、この迷える世界で「選ぶのは君だ」って本を子どもに手渡す傾向が目立つのは、どういうことなのかなと、ちょっと立ち止まって考えてみたいと。私も子どもの頃にイエスノーテストとか大好きでしたから、フローチャートみたいな図式とか、単純に楽しいのはわかるんです。ともあれ1つの傾向として取り上げておきたいと思い、ピックアップしました。
奇しくも『どっち?』という同名の絵本が2冊出ました。キボリノコンノさんの『どっち?』は、2023年に取り上げた『くらべるたべもの』(学研)と似たタイプのクイズ形式。『くらべる』は緻密な写実画でしたが、『どっち?』は木彫の質感がポイント。
もう1冊の『どっち?』(ひろたあきら)は、また全然タイプがちがい、好みでどっち選んでもいいんだよという。最初はたこさんウィンナーと卵焼きとか、普通のことを聞いているんですが、そのうち帽子かパンツか、空飛ぶ術か分身の術かなど、並列することがナンセンスになる、幅広いオプションを選ぶこと自体がおかしい絵本ですね。
そういえば、バーネットとクラッセンのペアによる『サンタさんは どうやって えんとつを おりるの?』というクリスマス絵本も、たくさんのオプションを思い浮かべながらサンタに成り代わって悩んであげるような本でした。あれこれ手段を考えるのは『このかべどうする?』にも通じるのですが、こっちはサンタという大人の他人事だから、気楽でのんきに想像を巡らせられるんですね。

広松由希子(ひろまつゆきこ)/絵本の文、評論、展示、翻訳などで活躍中。2017年のブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長など絵本コンペ審査員の仕事も多く、2024年は上海チルドレンズ・ブックフェアで国際審査員を務める。著作に『ようこそ じごくへ』『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』『ハシビロコウがいく』(BL出版)、『わたしを描く』(あかね書房)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。JBBY副会長。絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にて共同主宰。www.83gocco.tokyo




.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)
.jpg)

.jpg)
.jpg)


付録1 絵本「まねまねっこ」たなかしん