- 2025.06.19
広松由希子のこの絵本のココ! 第13回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編9

第13回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編9
MOE2025年2月号(バックナンバー発売中)の巻頭特集「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」にて、2024年の注目の新刊絵本、惜しくもランクインを逃した絵本などについて、広松由希子さんにお話しいただいた記事の完全版を分割してお送りします。
人の温もりだったり、 生活観だったり、家族の関係だったり、日本と韓国の感覚って微妙に違うんだけど、どこか近い。温もりの温度感が、熱すぎずぬるすぎず、心地よかったものをまとめてみたら、こんな絵本群になりました。
『わたしは地下鉄です』は、毎日同じ地下鉄に乗る人々を地下鉄の目線から眺める、ほどよい距離感の本なんですけど、そこにたまたま居合わせる人々の大切な日常が見えてきて、モノクロに近かった情景が最後は色に包まれて、あったかいなと感じました。
『わたしたちのケーキのわけかた』は5人きょうだいが、みんなで公平に分けっこしたり、とりっこになったりする絵本。うらやんだり喧嘩したりするのも含めて、感情をオープンにぶつけ合う家族感が、懐かしくあったかかったです。
『100年たったら』(アリス館、2018)に続く石井睦美・あべ弘士ペアの『ふゆのあとには はるがきます』は、冬から春にかけての北の家族の暮らし、雪国の日常や人のつながりに、実感のこもったあたたかさを感じます。あべ弘士さん、人間よりも動物の存在感が圧倒的だったけれど、この本では人の実在感があって、ぬくもりが伝わってきます。
『クリスマスマーケット』(★第17回MOE絵本屋さん大賞2024 30位)の舞台はスロバキアですが、30年以上暮らし、スロバキアがもう日常になっている、そこにあたたかな暮らしや人の営みを感じている降矢ななさんだから、描けた本ですね。寒い冬のぬくもりがやっぱりあたたかい。こういう暮らしに根づいた物語絵本は、きちんと評価され続けてほしいですね。
こうした心地よい距離感は、『わすれていいから』(★第17回MOE絵本屋さん大賞2024 2位)にも通じるものを感じました。
2024年は、長年絵本の世界を築いてきた大切な方たちが亡くなった年でもありました。本当に私たちが子どもだった頃から、ずっと「絵本って面白いよ。めくるとこんな楽しいことがあるよ」って教えてくれた大先輩たちが次々彼岸へ旅立たれてしまいましたよね。「ばばばあちゃん」のさとうわきこさんとか、「王さまシリーズ」の和歌山静子さんとか、秋には『ねないこだれだ』や『あーんあん』のせなけいこさん、 そして、幼年童話の世界も拓いてくれた『ぐりとぐら』や『ももいろのきりん』の中川李枝子さん。この方たちは、生活に根づいた物語の面白さとか、絵本の楽しくてあったかいものをしっかりと伝えてくれた人たちで、今ちょっと、心許ない感じがしています。
そんな湿っぽい気持ちをからっと笑ってくれるようなおかしな新作を、さとうわきこさんは遺してくれましたね。井上洋介さんばりのシュールな絵本『みちくさ』です。最後にこんなに子どものように放たれて自由な絵本を作られたというのが、なんか寂しくも嬉しい。2024年の記憶にとどめておきたいと思いました。
1月には柚木沙弥郎さん、11月には谷川俊太郎さんまで旅立ってしまったわけですが、彼岸へ旅立つ人たちをどう見送るか、どう受け止めるのか。「死」をテーマに描いた絵本は、2010年代以降の日本ではとても表現豊かな分野になっていますが、今年も印象に残った本がありました。
『ぼく、いいたい ことが あるの』は、カナダ出身の作家がフランス語で書いたテキストに、岡田千晶さんが絵を描いた本ですね。岡田さんは、奇をてらったり感動を煽ったりすることなく、 柔らかな描写で静かに描き上げています。おばあちゃんの老いと死を受けて、このおだやかな構図の変化に逆に驚きました。このテキストをもらったら、 画家は、もっとドラマチックな構図をとりたくなるんじゃないかと思うんですよね。「きゅうに おもいでで むねが いっぱいに なった。 いっしょに、さいこうけっさくを つくったよね。」という文の最高傑作だとか、 「せかいの てっぺんにも のぼった。」という文のてっぺんの描き方とか、絵描きが腕の見せ所と思って張り切りたくなるところじゃないかと。それが岡田さんの絵は、抑制の効いた穏やかな視線でね、ゆるやかに動いていく。この静かでやさしい絵が、実際に大切な人を失った人の心に、柔らかく手当てするみたいに 届いたんじゃないでしょうか。
もう1冊、意外な明るさの『てんごくまえデパート』を。猫のおじいさん、ニャンキチさんにお迎えが来るのですが、天国に行く前にやり残したことや思い残したことをやれるデパートで過ごす。コミカルな設定をていねいに描いていて、きっと同じ思いを抱いているような読者を心地よい温かさとやさしい悲しみで受け止めてくれる本ですね。いい後味が残ります。
韓国の本で『おとうさんを かして』は、タイトルからしてドキッとしますが、もっと感情を強く上下させる本。そんな感情表現の仕方からは韓国絵本のビビッドな特徴が伝わりますし、お父さんがいなくなったことの受け止め方、最後の吹き飛ばし方も新鮮に感じられました。

広松由希子(ひろまつゆきこ)/絵本の文、評論、展示、翻訳などで活躍中。2017年のブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長など絵本コンペ審査員の仕事も多く、2024年は上海チルドレンズ・ブックフェアで国際審査員を務める。著作に『ようこそ じごくへ』『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』『ハシビロコウがいく』(BL出版)、『わたしを描く』(あかね書房)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にて共同主宰。www.83gocco.tokyo















付録1 絵本「まねまねっこ」たなかしん