- 2025.06.26
広松由希子のこの絵本のココ! 第14回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編10

第14回 2024年 見逃せない注目絵本 特別編10
MOE2025年2月号(バックナンバー発売中)の巻頭特集「第17回MOE絵本屋さん大賞2024」にて、2024年の注目の新刊絵本、惜しくもランクインを逃した絵本などについて、広松由希子さんにお話しいただいた記事の完全版を分割してお送りします。
最近世の中の動きを見ていると、どうしようもなく絶望のため息が出ることがあります。今、子どもの本や絵本の作り手、送り手たちは、どうしたらいいんだろうと。前述の「選ぶのは君だ」的な、未来の力を子どもにつけさせようという動きもありますが、その前に、選べない状況もあるんですよね。先述のイラン絵本の難民の兄妹の話もそうですが、 こんなに暗い方に向かう世の中で、生き抜くために何が支えになるだろうって考えると……やっぱり「いつか」を思える希望みたいなものかなって思う。それすら危うい、今日だけを生き抜くのが精一杯の子どもたちもいると思うけど、それでも希望を伝えるのが、絵本の力だと思うので。
まとめてみたら、なにか見えてくるかなと思って少し集めてみました。かなり数が多いですね。『いつか きっと』のアマンダ・ゴーマンは、バイデン政権に変わるときの詩の朗読で世界的に注目された若い詩人でしたね。ちっちゃな希望でも、どう抱いて、いっしょにあきらめずに、うれしいことにつなげていけるかっていう励ましの絵本。原題は『Something, Someday』。いつかだけじゃなくて、なにか。ほんのちょっとしたことで未来はよくなるかもしれないと希望を伝える本。
明日のことを考えると暗くなっておなかが痛くなるけれど、顔を上げて、もっとずっと先を考えてみたら? 「100年後えほん」というシリーズがスタートしましたね。このシリーズはまだ始まったばかりで、どんな方向の作品が出てくるのかわからないですが、『100ねんごもまたあした』って、今言える。その視点は説得力がありますね。100年後を思い描くこと、いっしょに考えていこうという誠実な姿勢を感じます。
『うつくしいってなに?』も、希望につながる絵本だろうと感じました。穏やかな気持ちで読んでいると、『Goodnight Moon(おやすみなさい おつきさま)』を思い出しました。マーガレット・ワイズ・ブラウンが1940年代に伝えようとした世界と、2020年代の日本で伝えようとする世界。「この世界は大きくて、君らが生きるに足る世界だよ」っていうことを今、絵本で伝えるならどういうものになるんだろうと思うけれど、これもひとつのかたちかもしれませんね。
『ぼくらにできないことはない』の作者は、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞したスウェーデンのエーヴァ・リンドストロムさん。彼女も2023年の秋に来日しましたが、ようやく初めての邦訳絵本が出ました。エーヴァさんの絵本は決してわかりやすくなく、すごくパンチが効いているかというと、そうでもない。やんわりおかしかったり、じわじわ深くて鋭かったり。そんなわかりにくさも含め、今を生きる子どもたちに寄り添う本だなって思います。
『ぼくらにできないことはない』という勇ましく断言するタイトルに対し、描かれているのは、勇ましいことを言わずにはいられないような現状とも思えます。テキストには具体的なことは書かれていなくて、解釈は読者次第。親が離婚して別居しているともとれるし、難民の物語と読む人もいるとか。でも、主人公の双子のような子どもは、「ぼくらは かんぺき」「それしかない」ってきっぱり言う。これは先述のイラン絵本で「ぼうけんか」になる兄妹ともちょっと通じますね。でも、ここに描かれている絵には悲壮感はなく、ユーモアも漂う。子どもがいう「かんぺき」も、嘘ではなくて、希望であり、想像力であり、ある種の強さともとらえられる。子どもたちの今の気持ちをこんな風に描き出している絵本、なかなかないなと思い、やはり2024年の日本に届いた絵本として刻んでおきたいと思いました。
(次回へ続く)

広松由希子(ひろまつゆきこ)/絵本の文、評論、展示、翻訳などで活躍中。2017年のブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長など絵本コンペ審査員の仕事も多く、2024年は上海チルドレンズ・ブックフェアで国際審査員を務める。著作に『ようこそ じごくへ』『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、訳書に『ナンティー・ソロ 子どもたちを鳥にかえたひと』『ハシビロコウがいく』(BL出版)、『わたしを描く』(あかね書房)、『旅するわたしたち On the Move』(ブロンズ新社)など。絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にて共同主宰。www.83gocco.tokyo










付録1 絵本「まねまねっこ」たなかしん