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2020.10.02

広松由希子のこの一冊 ―絵本・2020年代― 連載第3回『ねられん ねられん かぼちゃのこ』やぎゅうげんいちろう



第3回 「いっしょに寝たい」
やぎゅうげんいちろう『ねられん ねられん かぼちゃのこ』
(福音館書店)


 絵本の「好き」には、いろいろあります。ぽかぽか胸あたたまる好きだったり、じーんと痺れる好きだったり、怒涛のように突き上げてくる好きだったり、もやもや悩ませられる好きだったり、神経逆撫でされる好きだったり……。

 「好き」のツボは、いろんな絵本を受け容れて刺激を受けるほどに増えていく気がします。絵本の快感が開発されていくのは、うれしいことですね。でもどんなに「好き」が増えても、「好き」のど真ん中というのは、子どもの頃から案外ブレない気がします。

 2年前、『ねられん ねられん かぼちゃのこ』を「こどものとも年少版」で手に取ったとき、「うわ、好きだ〜っ」と思いました。どれくらい好きかって、いっしょに抱いて寝たいくらい。実際布団の中には入れなかったけれど、長いこと枕元に置いていたのでした……それが! 2020年に早くも単行本化とは。小躍り。

 

 

 

 このあどけない「かぼちゃのこ」の表情。ね、たまらん。と、表紙だけ見せて、いそいそ本棚にしまいたくなっちゃう。だって好きなんだもーん。……って、このわがままぶり、どうでしょう。どうやらこの絵本、読者を子ども帰りさせちゃうみたいなんですね。

 柳生弦一郎さんといえば、『はなのあなのはなし』とか『あしのうらのはなし』とか、かさぶた、はらぺこ、おへそ、おっぱい、おしっこ、はだか……いい大人が目をそらしたくなるテーマをあっけらかんと取りあげた、ゆかいな体についての科学絵本が浮かびます。

 えっ、いいの? って躊躇しそうなところを、いいのいいのって、なんでもありの懐に受け止めてくれて、いっしょに大口開けて笑えてしまうようなおかしさがあるのですよね。その痛快な包容力は年々バージョンアップされていて、老いや死をテーマにしても突き抜けていますし、赤ちゃん絵本においては、こんなにもおおらかに共鳴できる大人がいるだろうかと、赤ちゃんといっしょになってけらけら笑ってしまうのです。

 さて、絵本を開いてみましょうか。24ページ、11見開き、2-4歳むきと書かれている幼児絵本シリーズです。

 まんまるおつきさんが空に昇って、声をかけます。
「よるに なったわよー そこの かぼちゃのこ はやく ねなさーい」
すると、

 

 

 


 頭にかえるさんって……何食わぬ顔の居座りぶり……。ねられん子どもが(実はねむくても)なんだかんだ理由をつけたがる気持ちがこもっている気もしますね。おつきさんは、
「かえるさんに どいて もらいなさーい」
(で、かえるが「びよよーん」)
と、さばさばしたもんですから。かぼちゃのこの「ねられん ねられん」は、毎度のことなんだろうなと察しがつきます。

 太くて自由な線。青い夜時間に、きれいに浮かぶベタの色面。のんきな表情とゆるいやりとり。

 かぼちゃのこの「ねられん ねられん」のごねっぷりは続きます。「せなかに いもむしさんが くっついてては ねられん」とか「おしりに かなぶんさんが くっついてては ねられん」とか。おつきさんも、ちょっとくらいイラついてもめげず、キレたりしません。

 

 

 

 おや、2匹は「ぶんぶーん」とどいてくれたけど、一番ちっこいのだけは、どいてくれないようす?
「いいの いいの あさちゃんは いいの」……って、ここからが本番の、たまらん「やぎゅう節」なんですけど……最後までは書けないから、ぜひ読んでほしいです。

「かぼちゃのこの すきにしなさーい」
って、おつきさまの半分あきれて、半分突き放した、それでいて最後まで相手してくれる距離感がたまらんです。この距離感と包容力が、赤ちゃんの読者を安心させ、大人の読者をも安心して赤ちゃんにさせてくれるのではないかと思います。

・・・・・

 ねられん ねられん。この本といっしょでないと、ねられん ねられん……っていうくらい好きな絵本があるのは、やっぱり幸せ。
 


 

やぎゅうげんいちろう(柳生弦一郎)/1943年三重県生まれ。からだに関係する絵本を多数手がけている。絵本に『ねむたい ねむたい』、『たまごのあかちゃん』、『いろいろおせわになりました』、『くらい くらい』、『おでかけ ばいばい』、『めんめん ばあ』、『もちっこ やいて』、『おてらのつねこさん』、『おなべふこどもしんりょうじょ』、ノンフィクションの絵本に『はなのあなのはなし』、『かさぶたくん』、『おっぱいのひみつ』、『おへそのひみつ』、『きゅうきゅうばこ 新版』、『せがのびる』(「かがくのとも」2020年3月号)、そのほか『にほんのわらべうた全四巻』(すべて福音館書店)などがある。長野県在住。

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。2017年ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)、訳書に『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)、『ヒキガエルがいく』(岩波書店)、『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月3日より、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco(ハチサンゴッコ)」を東京・市ヶ谷にオープン。www.83gocco.tokyo



東京都新宿区市ヶ谷に「えほんとごはん」のお店ができました。団地の一室をリノベーションしたささやかなスペースですが、和洋中さまざま、日替わりのおそうざいと、セレクトされた国内外の絵本をお楽しみいただけます。世界各国の絵本関連展示のほか、子ども向けの文庫、大人向けの絵本イベントなどもぼちぼち開催していきます。 最寄り駅は大江戸線牛込柳町。神楽坂、市ヶ谷、曙橋も徒歩圏内。お散歩がてらお気軽にお立ち寄りください。

えほんとごはん 83gocco
東京都新宿区市谷加賀町2-6-1 市ヶ谷加賀町アパートA-102  営業時間/11時〜19時 定休日/日・月 

 
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