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2021.08.27

スタジオジブリ最新作「アーヤと魔女」公開 宮崎吾朗監督インタビュー


 

スタジオジブリ最新作
アーヤと魔女 公開
宮崎吾朗監督インタビュー

 
 

スタジオジブリの最新作は、「子どもの家」で育った10歳の少女アーヤが、魔女と怪しげな男の2人組に引きとられ、新たな生活をはじめる物語。
昨年12月にNHKで放送され、大きな反響を呼んだ「アーヤと魔女」が8月27日(金)から劇場公開されます!
見逃していた方にはうれしいお知らせ。そして、一度観ただけではわからなかったとっておきの見どころを、MOE編集部がスタジオジブリの宮崎吾朗監督に伺いました。

編集協力/木村帆乃
 



 

ジブリが贈る“いい子じゃない”ヒロイン


——原作は、「ハウルの動く城」と同じくイギリスの児童文学作家、ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんですね。

最初読んだときは、アーヤってイヤな娘だなと思いましたね。魔女のおばさん、ベラ・ヤーガがかわいそう。ベラ・ヤーガにしてみたら、ブチギレると怖い魔王のようなおじさん(マンドレーク)が家にいて、それをなだめながら息を潜めるように生活している。自分も歳をとってきたし、楽になりたいと思って女の子を連れてきたのに、その娘がまたすごく自分勝手で、彼女のやることに翻弄されてしまう。このおばさんが一番かわいそう……って、中年のおじさんである僕としては思ったわけです(笑)。



——アーヤはどんな女の子なんですか?

アーヤって、いわゆる“いい子“ではないですよね。清く正しく美しく……みたいなヒロインとは正反対。すぐあぐらをかくし、ガハハと笑うし、解放された女の子ですよね。
そして自分が望むものがあったら、どうやったらそれが手に入るかを考える子。自分の願いを叶えるために、必要なことをするのがアーヤです。
そのために、人に対してうまく立ち回ろうとする。うまく立ち回るって言い方をすると、ふつうは媚びを売るとか、相手をだますことをイメージするけど、そういう嫌味じゃない方法でアーヤを描くことができたら面白いと思いました。



——アーヤのツンツンとした髪型も個性的です。

原作には「ハサミムシ」と書かれていて、ツノが2本あるのが特徴なんです。アーヤのしたたかな性格を出すために、最終的には攻撃的なクワガタみたいになりました。
 

原作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんのこと


——『アーヤと魔女』は、2011年に亡くなったダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの遺作です。吾朗監督がダイアナ作品に惹かれる理由はどこにあるのでしょうか。

厳密に言うと、ダイアナさんがずいぶん前に書いていたものを、亡くなる直前に整理して発表した作品らしいです。

ダイアナさんの作品の特徴は、とにかく一癖も二癖もあるような人ばっかりが出てくるところ!
「大魔法使いクレストマンシー」シリーズの『魔女と暮らせば』のグウェンドリンとかね。自分の目的のために弟の魂を使ってしまう、ろくでもないお姉さん。「デイルマーク王国史」シリーズにも、魔法が解けた途端、自由に生きちゃう自分本意なお母さんとか。
実際に近くにいたら迷惑千万なんだけど、お話としては最高に面白くて痛快な人々です。
「ダイアナの素敵じゃない人たち」っていうテーマで、ぜひMOEで特集してほしいです(笑)。



アーヤのお母さんも、自分本位の人です。決して褒められたもんじゃないけど、そのおかげでアーヤがああいう子になったとも言える。
アーヤが「子どもの家」で育ったからといって、かわいそうな子だと決めつけることはできない。そうじゃない生き方をしている子だっている。先入観で見てはいけないということも、ダイアナ作品のテーマの1つなんじゃないかと思います。
本当に、もっと読まれていい作家だと思いますね。

 

あたしは悪くない! 自己責任じゃない!


——今、ダイアナさんの作品が読まれるべき理由は?

ダイアナ作品には、周りから自分がどう思われているかとか、他人の目を気にしているような人はあまり出てきません。自分が自分に対してダメだという評価を下したりせず、「あたしが思い通りにならないのは、周りが悪いせいだ」という、アーヤみたいな登場人物が結構出てくるんです。

でもそこが、今、みんなが元気になるために必要なことなんじゃないかと思います。
「あなたが今つらい状況にいるのはあなたの責任じゃない、自己責任じゃないよね」というメッセージ。
「あたしは悪い“周り”のほうを突破して、どうにかしていくんだ」というのが、アーヤをはじめとする、ダイアナさんのキャラクターなんです。



 

見れば見るほど面白い部屋の秘密


——映画の見どころは?

もともと劇場公開にも耐え得るクオリティで作ったので。ぜひ劇場の大きなスクリーンで見てほしいですね。
たとえばベラ・ヤーガの魔法の部屋なんか、もうひたすらつくりこんであります。関わったスタッフは1年間、この部屋から出られませんでした。
映画館で見ると、「うわ、こんなところまで!?」と気持ち悪くなるくらい細かいつくりこみになっているんで、そういうところをぜひ。



——魔女の家、外観も内装もとてもよかったです。建築の専門家でもある、吾朗監督ならではの魅力ですね。

まず魔法の部屋は、ベラ・ヤーガが一代でつくりあげたものではなくて、先代の魔女たちから受け継いだものというイメージがありました。
一方で、キッチンやバスルームはそこまで古くなくて、中世さながらという感じではないだろうと。普通のちょっと前のイギリスの家庭にある感じ。そのギャップが面白いかなと思いました。
「キッチン小さくない?」ってツッコミが入るくらいの親近感がわくような。

——あの家、料理してないですもんね。

そうそう、魔法でウーバーしてるみたいですよね(笑)。



——好きなセリフはありますか?

「不思議だよね、困ったときほどひらめいちゃうんだよね」です。
まさにその通り! って感じです。

 

宮崎駿さんの「面白かった」が嬉しかった


——お父様の宮崎駿さんもご覧になりましたか?

「よかった、面白かった」と素直に言ってましたね。
「アーヤが魅力的だった」とも言っていました。しっかりお芝居ができていて、アニメーションとしてよかったということなんだと理解しています。CGだろうがなんだろうが、映画としてよかったということなんだと。そこは本当にうれしかったですね。

 やっぱり彼がなんて言うかで、いろいろ違ってきますから(笑)。

——高畑勲監督だったら何と言ったでしょう。

 うーん、負けず嫌いだから、きっと予想外のところから何か言ってくるんじゃないかな。



——次回作にはとりかかっていますか?

今は、来年開業予定のジブリパークに携わっています。「となりのトトロ」だけでなく「耳をすませば」「魔女の宅急便」などの5つのエリアがあり、すべてを見ています。実は「アーヤと魔女」を制作していたときも、ジブリパークも同時にやっていました。

——それは、超人的な二足のわらじ期間でしたね。開業予定の2022年秋も楽しみです!



これからのスタジオジブリ作品のはじまりは、映画館で出会える「アーヤと魔女」から。映画館でじっくり細部を見て、アーヤたちのお芝居を楽しみながら、スタジオジブリ・ワールドに浸りたいですね。
 

 
 

公開情報

 
   

劇場版
アーヤと魔女


出演:寺島しのぶ 豊川悦司 濱田 岳 平澤宏々路
原作:Diana Wynne Jones 田中薫子 訳 佐竹美保 絵/徳間書店刊
企画:宮崎 駿
監督:宮崎吾朗
音楽:武部聡志
主題歌:シェリナ・ムナフ(ヤマハミュージックコミュニケーションズ)
配給:東宝

公開日:2021年8月27日(金)

上映時間:1時間23分

●公式HP: https://www.aya-and-the-witch.jp
©2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

 

 
 

「アーヤと魔女」INFORMATION


三鷹の森ジブリ美術館企画展示 アーヤと魔女展
宮崎吾朗監督がどのようにして子どもにも人気の3DCGアニメーションを作りあげていったかを、わかりやすい映像展示をまじえて監督自らが説明。表情豊かなアーヤの誕生の秘密がわかります。





期間/2021年6月2日(水)~2022年5月まで(予定)
会場/東京都三鷹市下連雀1-1-83
時間/10:00~17:30 ※日時指定予約制
休み/火曜(そのほかに長期休館あり)
入場券/日時指定予約制(事前購入が必要) 大人・大学生1000円、高校・中学生700円、小学生400円、幼児(4歳以上)100円
オンライン予約/ローソンチケット 
問い合わせ/0570-055777(10:00~17:30 休館日は休み)
※感染拡大の状況により、開館日は変更になる可能性があります。ご来館前は三鷹の森ジブリ美術館公式サイトhttps://www.ghibli-museum.jp/)をご確認ください。
© Museo d'Arte Ghibli 

 

「ジブリの大博覧会~ジブリパーク、開園まであと1年。~」展
2015年、愛・地球博記念公園ではじまった「ジブリの大博覧会」。魅力的な展示を加えバージョンアップしながら全国各地を巡回し、今、愛知にすべての展示物が勢ぞろい。愛知では来年秋に「ジブリパーク」が開園予定。この大博覧会は、パークに収蔵される前の作品たちの最後のお披露目となります。ジブリパークの紹介展示の他、スタジオジブリ約35年の歩みを懐かしの映画ポスターやグッズ、未公開とされた原画など豊富な資料で振り返ります。


展覧会場の入口では、大きなトトロがお出迎え。  撮影/滝沢育絵 © Studio Ghibli


ジブリパークに2023年に誕生する「魔女の谷エリア」。「ハウルの城」も登場。 撮影/滝沢育絵 © Studio Ghibli 

期間/開催中~2021年9月23日(木・祝)
会場/愛知県美術館[愛知芸術文化センター10階] 名古屋市東区東桜1-13-2
時間/10:00~18:00 ※金曜は20:00(入館は閉館30分前まで)
休/9月6日(月)、21日(火)
入場券/日時指定予約制(事前購入が必要)
一般1900円、高大生1500円、小中生1000円、未就学児無料
オンライン予約購入/Boo-Wooチケット カスタマーセンター 0570-084-700(11:00~17:00)
店頭/ローソン、ミニストップ (Lコード:48222)
特設サイト/https://www.ghibliexpo-aichi.com/ 

 

Profile
宮崎吾朗(みやざきごろう)/1967年東京都生まれ。映画監督。建設コンサルタント会社勤務の後、2001年にオープンした三鷹の森ジブリ美術館設立に参加。2006年、「ゲド戦記」ではじめて長編アニメーション映画の監督と脚本を務める。監督作品に「コクリコ坂から」(2011)、テレビシリーズ「山賊の娘ローニャ」(2014)がある。
 

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