- 2025.06.27
「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」アフタートーク イベントレポート
2025年6月9日夜、「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」の会場、CREATIVE MUSEUM TOKYOに併設するCREATIVE MUSEUM TOKYO CAFE(会期中は「ヨシタケ飲食店かもしれない」が期間限定オープン)にて、トークイベント「ヨシタケシンスケ展かもしれない アフタートーク こんなこともありました」が開催されました。
登壇者は、ヨシタケシンスケさんご本人、白泉社MOE編集部の位頭久美子さん、そしてヨシタケ展企画に携わった白泉社の小西利枝さんの3人。絵本作家ヨシタケシンスケとMOEの親密な関係や、展覧会の裏話などをふり返りました。

左から、位頭さん、ヨシタケさん、小西さん
ヨシタケ 私がヨシタケシンスケです。
こちらが位頭さんで、白泉社の担当編集の方。すごく優しそうでしょ。でも実は怖い人なんですよ。
で、こちらが小西さん。一番最初の会場だった世田谷文学館からずっと展覧会を取り仕切ってくださっています。
このお2人がいなければ、もう宇宙が存在してなかったっていうぐらい、影響力のある人たちです。
位頭 MOE編集部の位頭と申します。
さっそくですが、「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」が閉幕しまして、まずはヨシタケさんのご感想をうかがいたいと思います。

ヨシタケ とうとう終わっちゃいましたね。おかげさまで本当にたくさんの方にお越しいただいて、とても勉強になりました。はじめてのことにもたくさんチャレンジしましたが、ケガ人もなく、無事に終わってよかったです。
3年前、世田谷で展覧会がはじまったときはコロナの真っ只中で、「手で触る展示はダメ」「靴を脱ぐものはダメ」とか、完全予約制とか、かなり制約が多かったんですけど、全国を巡回している内にだんだん状況も良くなってきて、いろんなことがOKになったので、今回、また東京で展覧会ができると決まって、じゃあ最初からやりたいと思ってたことをやろう! となって。
そういう意味でも、やっと展覧会が完成した感があって、僕にとってはすごく満足度の高いものになりました。

小西 本当に、あの頃はできないことが山のようにありました。
東京凱旋となったCMT会場のお客様のアンケートでは、99パーセントの方が「満足」だったそうです。すごい数字ですよね。
ヨシタケさんがあちこちでしかけた、クスッとするところやしんみりするところもちゃんと届いているんだなと思って、すごく安心しました。
あと大人だけが来場する時間帯を設けた「大人イベント」でも、すごくいい感想をいただけて。
今夜も、ぜひみなさんに満足していただけるように頑張ります!

ヨシタケ みなさんの優しさが試される夜になっておりますので、よろしくお願いいたします。
位頭 「ヨシタケ展」は、いわゆる絵本原画展ではない、本当に面白い展示になりました。まずは、展覧会がはじまったいきさつを、小西からご紹介させていただきます。
小西 「MOE40周年記念 5人展」でヨシタケ先生に参加してもらっていた頃から単独での展覧会の話が持ち上がっていました。でも、ヨシタケさんの原画って、実際の絵本よりもかなり小さいんですよね。
最初はその小さい絵を展示するっていうイメージがなかなか湧かなくて、話し合っている時間が結構長くありました。
ヨシタケ 最初に展覧会のお話をいただいたときは辞退したんです。小さい原画を並べても場所が余っちゃいますよって。やりますと言ったことは一度もないです。それでも、わざわざ足を運んでもらうにはどうしたらいいかと話し合いつつ、なんとなく生返事をしている内に、その道のプロが集まってきちゃった。
小西 ヨシタケ先生を中心に、白泉社、朝日新聞社のみなさん、学芸員さん、デザイナーさん、ライターさんが集まって、「ヨシタケ展」チームを結成しました。
ヨシタケ はい。本当に実績のある一流のプロフェッショナルたちが集まっちゃって。でも、みなさんが一流で独自のやり方があるものだから、今度は僕がついていけなくなるという。
「どんなに一流のメンバーでも相性が悪かったらどうしよう」とか、「誰も悪くないのに誰も幸せじゃなかったらどうしよう」とか、オープンするまではいろんな試行錯誤がありましたね。
小西 気を遣わせました。
ヨシタケ でも、結果的にはすごくいいものができたので、やっぱり相性は良かったことになる。
展覧会はチーム作業ですが、つくづく自分が団体行動に向いてないってことも思い知らされました。
小西 詳しくは、展覧会ができるまでを追った赤い図録『こっちだったかもしれない』(展覧会場限定発売)をご覧ください。
では、なぜ「ヨシタケ展」をやることになったのか、そもそものところをお見せしていきましょう。
位頭 これがMOEの2017年4月号。はじめて巻頭でヨシタケさんを特集しました。
ヨシタケさんにはじめてお会いしたのは、その前のMOE絵本屋さん大賞の授賞式のときです。デビュー作の『りんごかもしれない』で、いきなり1位を獲られて。
そのときはまだ、今のような(紺のTシャツとカーゴパンツの)スタイルではなくて、薄いグレーのジャケットを着ておられました。
ヨシタケ そうそう。あの頃はまだふわふわしてて、ちゃんと襟のついたもの着なきゃみたいなのがありました。今は同じ服だと楽だってことがわかり、むしろこれがフォーマルです。
位頭 それで、ぜひヨシタケさんの特集をやろうということになって、読者への自己紹介として「ヨシタケシンスケとは」みたいなイラストを描いてくださいとお願いしたんです。
そうしたら、この絵*が届きました。
「こんなに面白いもの描いてくださるんだ!」とうれしくなっちゃって、それからみんなでヨシタケさんに病みつきになったのがきっかけでした。
*「ヨシタケシンスケのしくみ」。『ものは言いよう』(白泉社)に収録。
ヨシタケ 最初にやりすぎましたね。
毎回これぐらいやるんでしょ、と思われるハメになって。
位頭 それから年に1冊くらいずつ、コンスタントに巻頭特集をさせていただくようになりました。
2018年1月号では表紙を描きおろしていただき、2018年12月号は、『それしか ないわけ ないでしょう』(白泉社)が出たときの巻頭特集。2020年9月号は「ヨシタケシンスケ ことばの魔法」、2022年5月号がはじめての「ヨシタケシンスケ展かもしれない」の特集でした。2023年5月号はデビュー10周年を記念した特集、2024年7月号からは、「ヨシタケシンスケのおなやみそうだん」の連載がはじまりました。そして2025年4月号では「ヨシタケシンスケ展かもしれない たっぷり増量タイプ」の見どころをご紹介しました。
その間、MOEの特集を集めて再構成した単行本『ものは言いよう』(2019年)が出まして、今年の5月には、その続編『だったらこれならどうですか』も出ました。これは「増量タイプ」の展示写真やラフスケッチ、原画を収録した本で、発売から3週間で緊急重版も決まって、おかげさまで大人気です。

ヨシタケさんとMOEのあゆみ
位頭 それからもう1つ、2018年に「MOE創刊40周年記念 5人展」というのがありました。これがヨシタケ展の原型になったと思います。ヨシタケさんをはじめ、MOEがお世話になっている5人の絵本作家さんに参加していただきました。 他の作家の方はおもに原画を展示したんですけど、ヨシタケさんは原画の他にオブジェとか、あの小さなスケッチをはじめて公開したんです。


「MOE40周年記念 5人展」より 撮影/黒澤義教
ヨシタケ 錚々たる方々の中に混ぜていただいて。奥行きのある美しい原画の中に、僕だけ舞台裏みたいな展示になっちゃった。でも5人いるんだから、1人くらいちょっと外れたのがいてもいいだろうと思って。
この頃から、原画以外でなんとかお茶を濁せないか、他でカバーできないかという試行錯誤がはじまっていたんですね。
位頭 このとき「MOEとわたし」っていう描きおろしをいただいて。車に乗って道路を走っていたら、いつのまにかMOEっていう高速道路に入ってしまった、というイラストエッセイでした。やっぱりアウェイ感があったんでしょうか。

イラストエッセイ「MOEとわたし」 撮影/黒澤義教
ヨシタケ そう、まだデビューして4〜5年の新人でしたし。迷い込んだ高速道路で他の方と並んでハンドルをにぎる責任もあって、すごく怖かったです。
小西 小さいスケッチというと、「ヨシタケ展」のアイデアスケッチも、すべてA4サイズですよね。しかもぎっちり、みっしり。すっごい小さいんで、目を凝らしてもたぶん見えない。

展覧会のアイデアをまとめたA4サイズのスケッチ
ヨシタケ うちのスキャナーが家庭用で、A4までしか使えないからです。僕は筆圧がすごく薄いので、描いたものをスキャンして、PCでコントラストを上げてわざと濃くして、展覧会の関係者にメールでアイデアを送っていました。
小西 企画を練りに練って、決まるまで1年半くらいはかかったと思います。せっかくいただいたアイデアも、いろいろボツになってしまって。
ヨシタケ 最初に「動物ふれあいコーナー」をつくりたいですと言ったんですけど。
小西 モルモットやうさぎを用意してくださいと言われました(笑)。
ヨシタケ 全然原画は見なくても、うさちゃんかわいかったねーって、自分の原画以外でお子さんが安心して楽しめるものがあったらいいなと思って。
そしたら美術館の方が「生きものはちょっと……」って。それなら「かわいい動物の映像を用意してください」ってお願いして。でもそれも、「絵本と関係ないですよね」って断られて。
小西 それが今回、「たっぷり増量タイプ」で実現しました。こっそりと。
ヨシタケ みなさんに「本気だと思いませんでした。冗談だと思ってました」って言われたんですけど、本当に最初からやりたかったことです。「動物が食べてる姿って癒やされるよねー」「来てよかったねー」って、お客さんにそういう好感度を残したかった。
小西 3年かかりました。ずいぶん粘りましたよね。
ヨシタケ 「じごくのトゲトゲイス」も、最初のアイデアはイスじゃなくて、足ツボだったんです。子どもは体重が軽いからそんなに痛くないんだけど、大人はめっちゃ痛いやつ。子どもって、お父さんやお母さんが悶え苦しんでる姿を見るのが大好きなんですよ。だけど、コロナで靴を脱ぐのはNGということになってしまって。
そんなとき、イスにすればいいんだ! と気づいたときはすごくうれしかったですね。
やりたいことをどう形にするか、いろんな制約の中で着地点を見つける作業は、絵本づくりと似ていると思います。
小西 3会場目までは、アルコール消毒のボトルの設置もありましたね。
ヨシタケ そうそう、これも絶対置かなきゃいけないもので。あのままだったら気持ちが冷めちゃうものを、どうにか「やりたい」ってプラスの気持ちに変えるものにしたくて、おじさんとか鬼とか、かわいくないものがポンプを押して働かせるしかけにしました。
小西 今はなくなってしまったので、初期のお客さんは貴重な体験ができましたよね。
ヨシタケ 会場の最後の通路にある、僕が犠牲になってみなさんを助ける「かっこいいヨシタケ」のパネルは、映画「里見八犬伝」のパロディなんですけど、自分が絶対なれないヒーローみたいなことがやりたいっていうアイデアでした。
最初は、茶室のにじり口みたいに小さな通路にしたかったんですけど、消防法にひっかかって危なくてダメで。ギリギリのサイズを探っていきました。
ちなみに、結果的には「自分がドラゴンに襲われているあいだに、みんな逃げてくれ」っていう絵になったんですけど、最初は「里見八犬伝」みたいに、崩れる石の門を僕が支えている絵だったんです。
ところが、完成間近というところでウクライナ戦争がはじまっちゃって。毎日ニュースで見ている映像を想起させるということで、これもNGにしました。ドラゴンにすることでフィクション味をグッとあげて対応したんです。

シャッターを使って「かっこいいヨシタケ」の説明をしているところ
ヨシタケ 絵本だと、わりとつくった当時の価値観をそのまま残すことができますが、展覧会は24時間ベースでアップデートしていかなければならない。リアルな場所に何かをつくるというのは、こういうことなんだと。ナマモノだっていうのをすごく感じましたね。
小西 コロナや戦争の他にも、石川会場では能登地震の影響もあって。現地の小学校に絵本を届けたり、出張版「みらいカード」*もやりました。
本当に、これまでの15会場それぞれに、いろんな思い出があります。
*「あなたのみらいはこれかもしれない!」のコーナー。壺の中からカードを1枚引いて、未来を占う。
それぞれの会場でチラシのメインカラーが変わるのも、スタッフみんな楽しみにしていました。それと、それぞれの会場で描きおろしてくださった、ご当地スケッチ*も見どころでしたね。
*ヨシタケさんが各会場で描きおろしたもの。その会場でしか見ることのできない特別な展示だった。なお、14会場目までのスケッチは「旅の思い出スケッチ」として『だったらこれならどうですか』(白泉社)に収録。
小西 「たっぷり増量タイプ」では、これまで約2500枚だったヨシタケさんのスケッチが7500枚以上に大増量しました。
ヨシタケ これはぼくがずっと描いてきた、いわゆるネタ帳みたいなもの。3〜4枚見たらほとんど似たようなものだとわかるので、全部見なくてもよくて、「こんなに描いたんだ、気持ち悪!」ってゾッとしてもらえたら僕はそれでうれしいんです。
これを描き続けていると、自分が何に興味があって何に興味がないのか、客観視することができるのでとても助かっています。
何か面白いものに出会ったとき、写真で記録するのに向いているもの、絵で記録するのに向いているもの、いろいろとあると思うんですが、僕の担当は「絵と言葉をセットにしたときに、一番面白さが記録できるもの」だと思っていて。逆に、そういう面白さに出会えたときに、これは僕が残さなきゃっていう謎の使命感が生まれたりもします。
小西 15000枚くらいスケッチがあった中で、今回半分くらいは展示することができました。楽しいものも、悲しいものも、お好きなロボやメカも……。
ヨシタケ こういう、あくまで自分を救う、自分を面白がらせるためだけに描く行為っていうのは、単純に健康にいいし、たとえ誰かに見せたり喜ばせることはなくても、自分を鼓舞するというか、生きていていい理由になると思っていて。
立派な表現じゃなくても、これだっていいじゃんっていうのは、僕がずっと言ってきたことかなと思います。
僕の場合は、本当にラッキーなことにそれがお仕事につながって。そんなこともあるんだよ、ということを、何か辛いことがあったり、未来に不安を感じている人にもアピールしていきたいですね。
小西 そして、ヨシタケさんがやりたかった「つり輪の森」も、今回ようやく実現しました。
ヨシタケ 体を使うもの、皮膚感覚に還元できるものをやりたいとずっと思っていて。これもコロナの状況が良くなってできたことです。これ、体操選手が使う本物のつり輪なんですよ。いいものを用意してくださって、すごくうれしかったです。1セットいただいて、ぶら下がり健康器みたいに家で使おうかなと思ってます。
小西 「あなただけのひみつをつくろう!」のコーナーも、「たっぷり増量タイプ」で登場しました。
位頭 2020年に、NHK Eテレで「すごい宿題」っていう番組があって、そのときにヨシタケさんが描いた絵をMOEの2020年9月号のふろくとして小冊子に再構成しました。「STAY HOME 心の中でできること」というタイトルで、コロナのステイホーム期間中だからこそ、自分の心としっかり向き合おうという内容で。
これが「あなただけのひみつをつくろう!」にもつながったんですよね。

MOE 2020年9月号別冊ふろく「STAY HOME 心の中でできること」
ヨシタケ はい。展覧会って、やっぱり一緒に来た人と何か共通の思い出をつくるのが目的の1つだと思うんです。あれよかったね、かわいかったねって感想を話し合ったりして。
でもそれとは逆に、一人一人が自分だけの秘密をつくって帰るのもありだと思ったんです。あえて思い出をシェアしない、いいねをもらわない体験。
しかも、それが目の前でバーッと紙吹雪になったら楽しいじゃないですか。みんなの秘密が、粉々になって可視化されていくっていうのが。
小西 毎日、秘密の山ができていくのが爽快でした。
でも、「つり輪の森」も「あなただけのひみつをつくろう!」も、残念ながらこの東京会場のみで、この後の巡回先では見られなくなってしまいます。
位頭 そうですね。いつか「ヨシタケミュージアム」ができたときに復活するかもしれません。
小西 7500枚以上に増量したスケッチは、新しい方が約2500枚残って今後巡回していくそうです。だから内容は刷新されていきます。それから各会場とのご当地コラボもありますし、後半戦もまだまだ楽しみですね。
ヨシタケ バイタリティのある方は、あっちこっちいろんな会場を見ていただけるといいんじゃないかと思います。
位頭 では、今日のお話はこのあたりでお終いにしたいと思います。
一同 ありがとうございました。

2025年7月12日(土)~9月7日(日)
秋田県立博物館
2025年9月20日(土)~11月24日(月・祝)
愛媛県歴史文化博物館
2025年12月2日(火)~2026年1月12日(月・祝)
高知県立美術館
2026年2月21日(土)~4月12日(日)
防府市地域交流センター(アスピラート)2F展示ホール
2026年春
カクイックス交流センター(かごしま県民交流センター)
2026年夏
2026年冬
八戸市美術館
2022年4月9日(土)~7月3日(日) 東京・世田谷文学館
2022年7月15日(金)~8月28日(日) 兵庫・市立伊丹ミュージアム
2022年9月23日(金)~11月20日(日) 広島・ひろしま美術館
2022年12月10日(土)~2023年1月15日(日) 愛知・松坂屋美術館
2023年4月8日(土)~5月7日(日) 鳥取・倉吉博物館
2023年5月22日(月)~7月16日(日) 福岡・福岡市科学館
2023年7月29日(土)~9月24日(日) 新潟県立万代島美術館
2023年10月15日(日)~12月24日(日) 栃木・宇都宮美術館
2024年1月6日(土)~2月12日(月) 静岡・静岡市清水文化会館マリナート
2024年3月20日(水)~5月12日(日) 長野・上田市立美術館 サントミューゼ
2024年6月15日(土)~7月14日(日) 石川・金沢21世紀美術館 市民ギャラリー
2024年7月23日(火)~9月2日(月) 神奈川・そごう美術館
2024年9月15日(日)~11月4日(月) 沖縄・浦添市美術館
2024年11月23日(土)~2025年1月13日(月) 岡山シティミュージアム
2025年3月20日(木)~6月3日(火) CREATIVE MUSEUM TOKYO